大動脈瘤破裂
病気の概要
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大動脈は、心臓から全身に血液を送り出す、体内で最も太い血管です。大動脈瘤とは、自身の血圧によって大動脈の壁が弱くなり、こぶのように膨らんでしまう病気です。動脈硬化が原因であることが多く、その他に感染症や生まれつき、ケガなどが考えられます。
こぶができた場所によって、胸部大動脈瘤(上行大動脈瘤・弓部大動脈瘤・下行大動脈瘤)・腹部大動脈瘤に分類されます。胸部から腹部にかけて繋がってこぶがある場合は、胸腹部大動脈瘤といいます。
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大動脈瘤破裂は、この膨らみが破裂し、お腹の中や肺のあたりに血液が大量に流れ出て、体内で大量出血によるショック状態(脳や臓器などが酸素不足に陥り、生命にかかわる危険な状態)に陥り、突然死につながる可能性が高い非常に危険な病気です。
80代 男性 胸部大動脈瘤破裂
※血腫:出血した血液が体内に溜まった状態
症状について
大動脈瘤が徐々に大きくなる段階では無症状で、大動脈瘤が破裂しない限り自覚症状がないケースが多いのが特徴です。そのため、別名サイレントキラー(静かなる殺人者)とも呼ばれます。
自覚症状が出ないことが多いため、健康診断や別の病気でCT検査や超音波検査を受けたときに偶然見つかることがほとんどです。
大動脈瘤が破裂すると、体内(腹腔内)で大量出血を起こし、突然の激痛(腹部大動脈瘤の場合:腰痛・腹痛、胸部大動脈瘤の場合:胸痛、背中の痛み)を生じます。
50代 女性 大動脈瘤破裂(腹部)
(※破裂した大動脈瘤からの出血)
まれに食道や腸と交通した場合には吐血、下血を生じることもあります。
70代 男性 腹部大動脈瘤十二指腸穿破(大動脈腸管瘻)
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動脈相(CT検査)
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平衡相(CT検査)
強烈な痛みとともに大量出血によるショック状態に陥り、突然死することもある危険な状態です。破裂した場合、死亡率は80~90%にも上るといわれており、病院に到着する前に死に至るケースも多く、一刻も早い緊急手術が必要となります。
検査について
血管内に造影剤という薬をいれる造影CT検査を行います。これによって、動脈瘤の場所、および瘤の大きさや形、動脈瘤が破裂した場所、出血の程度がわかり、治療方針の決定につなげます。ます。必要に応じて、血管超音波検査、心臓超音波検査、MRI検査、血管造影検査なども行われます。
治療
大動脈瘤が破裂すると命に関わるため、診断がつき次第、すみやかに緊急手術を行います。ショック状態(全身の重要な臓器の血流が維持できず、生命の危機にいたる状態)にあり、全身状態が不良である場合が多いため、手術成績は待機手術(大動脈瘤が破裂する前に行う場合のこと)よりも不良です。破裂による出血を止め、ショック状態を離脱させなければ死に至りますので、「救命」を目的とした治療・手術を行います。
手術前の状態が不良であるため、当院ではなるべく身体への負担が少ない方法を用いた治療、「ステントグラフト内挿術」を第一選択としています。
50代 女性 大動脈瘤破裂(腹部)
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ステントグラフト内挿術(術前)
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ステントグラフト内挿術(術後)
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ステントグラフト内挿術(術後)
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ステントグラフト内挿術(術前)
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ステントグラフト内挿術(術後1年)
しかし「ステントグラフト内挿術は」解剖学的な制約を受けやすいため、適応でないと判断された場合には「人工血管置換術」を選択します。
第一選択としています。
80代 男性 大動脈瘤破裂(腹部)
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人工血管置換術(術前)
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人工血管置換術(術後)
腹部大動脈瘤破裂の場合、手術開始までの出血量を減少させ、循環(血圧など)を安定させることで、救命率を向上させることが報告されています。手術前に上肢あるいは足の付け根から「大動脈閉塞用バルーン」を挿入して治療に臨むこともあります。
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監修:山本 裕之
心臓血管外科・血管外科/心臓血管外科主任部長・血管外科部長
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