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2019.03.26(最終更新日:2019.04.17) 徒然音楽 解体新書

Vol.3 「日本語ラップ」

 毎回ご愛顧頂いております、法人内ミュージックラバーの皆さん、ラップフリークの皆さん、お待たせ致しました。そして、あまりラップに触れたことない皆さん、これを読んだら最後、ユッサユッサと肩で風切って歩いているはず。
 兎にも角にも、「ラップとは何ぞや」という方に、まずラップの簡単な特徴を説明すると「押韻」という技法を歌詞に用いるという点です。例えば「おはよう」と「戸惑う」。この二つの母音は

● おはよう=O ha yo u =おあおう
● とまどう=To ma do u =おあおう

 このように、歌詞の中で単語ごとに音を合わせることで「お経」と形容される独特の歌い方に、リズムと規則性を作ることができます。この押韻がラップの大きな定義となります。英語圏においてはジャンルを問わず、様々な楽曲で押韻が取り入れられており、日本でも古くは和歌や短歌にも用いられているポピュラーな技法です。
 次に、日本語ラップの原点がどこかという話ですが、アーティスト自身が「ラップだ!」と認識している楽曲でいうと、皆様ご存知1984年にリリースされた吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」という説が有力です。
 1986年には、いとうせいこう & TINNIE PUNX(藤原ヒロシと高木完)が「東京ブロンクス」をリリース。リリックには「俺ら東京さ行ぐだ」のリリックをサンプリングしている部分もあります。80年代は、アメリカで流行り始めていたラップという音楽を試験的に日本語でやりはじめた創成期と言えます。
 90年代に入ると、マイノリティな音楽を支持するサブカルチャー好きが、日本語ラップクラシックを生み出してい行きます。どのアーティストも試行錯誤した時代で非常にカッコよく、すべてを紹介したいのですが、ここでは僕を狂わせたアーティストの一部を紹介していきます。
 まず、小学1年生の時にラップの面白さを教えてくれた「スチャダラパー」。「スチャラカでスーダラなラッパー」というコンセプト通り、彼らの特徴は、非日常というよりはごく日常的なものに目を向け、力んでいるというよりは脱力していて、「ああ、あるある!」と共感出来る、聴いていて楽しいラップを作るアーティスト。ユルさが先行しがちだけど、反抗心・不満をユーモアに変えてラップするカッコいい3人組。MCのBOSEはポンキッキーズにも出演し、オープニングテーマ「GET UP AND DANCE」も20代後半~30代前半の皆様は歌った覚えがあるはず。さらに小沢健二をフィーチャーした「今夜はブギーバック」が当時メガヒットして色んなアーティストにカバーされています。
 そんなスチャダラのユルさと反対にインパクトを喰らったのは「BUDDHA BRAND(ブッダブランド)」。彼らはアメリカで出会った4人で結成し、逆輸入的に日本で暴れたグループ。ファンキーなトラックが特徴で、こんな曲もサンプリングしてたのか!!! というサプライズも魅せる。中でもブッダの名曲「人間発電所」のアウトロ部分が、小椋佳の「糸杉のある風景」のアウトロを元ネタにしていることに大きな衝撃を受けました。ジャンルも違う曲のアウトロを使ってラップのアウトロに変えちゃうなんて予想外すぎる…。
 この曲はブッダのリーダーdev large(デヴラージ)が、当時流行っていたフリーソウルや渋谷系といわれる、「オシャレな人たちにウケる曲を思いついた」と言って作った曲。その次にドロップした「J-WAVEでかかるような曲を作りたい」と言って作った曲「ブッダの休日」という最高にチルな名曲は、まさに休日の昼過ぎの微睡みタイムにピッタリ。不健全な休日を表現したこの曲も今ではクラシックとされています。
 dev largeのサンプリングセンスもさることながら、ラップについても定評のあったブッダ。特にメンバーNIPPSのラップはアメリカ帰りという事もあって、日本語と英語が絶妙に混じり合っており、言い回しも内容も「なんじゃそりゃ!」って言いたくなるんだけど、やけに印象に残るパンチラインに化ける。
 2015年にリーダーdev largeが45歳の若さで死去したため、BUDDHA BRANDは音源でしか聞けない伝説のグループとなってしまった。
 2000年代に入ると、日本語ラップはメディアへの露出も派手になり、国内では大きなラップ、HIPHOPブームに発展。街にはオーバーサイズのTシャツにヤンキースキャップを被った若者がいっぱい!
 そんな時代にZEEBRAは、日本語ラップをアンダーグラウンドからオーバーグラウンドにアップデートさせた人物の1人。90年代からキングギドラの一員として活動し、アメリカに渡って先述のBUDDHA BRANDとラップバトルし、日本語に拘り、当時はまだ日本語でカッコよくライミング出来ないと言われていた時代に、キングギドラが初めて日本語でラップする手法を確立。もちろんそうなるとマネしちゃうアーティストも出て来てしまい、当時ミクスチャーバンドで人気があり、ZEEBRAとも「Greatful days」という曲で共演したDragon Ashのkjをキングギドラ名義の「公開処刑」という楽曲でディス。当時のkjのラップや声がZEEBRAに似てるというのがディスの理由。
 海外ではこのディスからビーフ(ラッパー同士のイザコザ)に発展し、当事者同士の楽曲が噂になり人気になる一方で、その取り巻きによる暴力的なバトルになり、命を落としたアーティストもいます。ディスが話題になり、当事者が有名になるチャンスになり得るというのもヒップホップカルチャーの1つなのですが…。
 こんな話をすると、ZEEBRAはただのおっかない輩に見えますが、日本人にも分かりやすくラップの格好良さを見せた功績は大きく、日本語ラップ界には大きな影響を残しました。
 ZEEBRAの様な手本が存在して、ラップの認知度も上がってくれば、次に盛り上がってくるのは地方のラップシーン。都心部だけでなく地方にもラップが出回ることで、各地のアーティストが活動開始。特に人気を博したのが、ストリートライフやイリーガルな日常をラップにしたアーティスト達でした。「ドラッグディール」や「悪自慢」など、一般市民から見たら非現実的だけど、ノンフィクションなリアルを感じさせる楽曲が人気になりました。
 NORIKIYOという神奈川のラッパーもその1人。ドラッグディールは勿論のこと、その他の悪事にも手を染め、ついに警察から逃げる為に、ビルの4Fから飛び降り、入院中に友人が持ってきたラップのCDに感銘を受け病室で楽曲制作を始めていく。彼の特徴はラップにありがちな独自の意見を押し付けず、俺はこう思うけど、お前ならどうする?(どう思う?)という問いかけのスタンス。ノリだけでなくリリックの内容を、リスナーに考えさせながら聞かせるという、非常に技巧派のラッパー。
 構成が非常に上手い上に、ライブに対する熱意が凄く、高いプロ意識を持ったラッパー。過去に泥酔状態でライブするという大失態を犯してからは、素面でライブに臨み続けている。彼らの成功のお陰で、ストリートライフからの脱却をテーマにラップするアーティストが急増。このように、センスに恵まれたイリーガルな環境にいた人間から人気アーティストが生まれ始めたのもこの時代の特徴と言えます。

 そして近年、ここ10年ほどでカッコいいアーティストとは…?

 日本語ラップシーンは進行形ですので、このような表現は多少軽率かもしれませんが、非常に「多様性」が認められてきている、と言えます。韻に固執しないラッパー、アメリカのメインストリームに近い楽曲を作るラッパー、ハウスやテクノでラップするラッパー、素人感をウリにするラッパーなど、様々なスタイルが認められ、且つSNSやWEB上での情報発信が容易に出来るので、話題になり人気が出るまでのスピードが、過去と比較すると非常に早くなりました。特に昔は「ポッと出」が嫌われ、「下積み」を重ねてきた者が認められていましたが、現代では「良いものは良い」と受け入れられる時代になったおかげで、日本語ラップの幅も近年で大幅に広くなった気がします。フリースタイルMCバトルが地上波で放送されるようになった事も大きなシーンの成長と言えます。
 そんなフリースタイルも得意で、トラックメイクもこなし、今ではテレビ番組のオープニング曲やジングルもこなす、東京板橋の生き字引ことPUNPEEの楽曲を聴いたときの衝撃は今でも忘れられません。
 もともとはバンドマンとして活動し、その後PUNPEE、友人のGAPPERで活動していたラップユニットP&Gに、実弟S.L.A.C.Kが加わりPSGとして活動開始。デビューアルバムにして名盤「David」が話題を呼び、一挙に人気グループへ。PSGとしてリリースしたアルバムはこの「David」とインスト版「David インスト」のたった2枚。しかしトラックメイクとプロデュースでの才能を活かし、PUNPEEはソロでも大活躍。最近では加山雄三の「お嫁においで」をサンプリングしてラップした「お嫁においで2015」をリリースし大きな話題を呼びました。
 パッと見ただけではラッパーとは思えないビジュアルに、溢れんばかりの才能を感じる作品の数々には驚きの連続。レコードコレクターの親父さんの影響で、様々な音楽に触れており、ラップに出会わせたのも親父さん。
 ラ・サール出身のSTUTSというトラックメイカーと一緒に作った作品「夜を使い果たして」では、なんとその親父さんがMV出演しています。様々なMVをプロデュースするなど、映像に対しても才能を発揮し、楽曲中に「将来は映画監督になりたいです」とも言い切っている。PUNPEEに限らず、多才な才能を持ったアーティストが各方面から日本語ラップシーン目掛けて飛び込んできている状況を見れば、今の日本語ラップシーンがいかに寛容でクリエイティブなカルチャーになっているかがわかる。

 今後の日本語ラップシーンから、まだまだ目が離せない。

 おやすみBGM BIM/The Beam

 (米盛病院院内広報誌:2018年秋号より)

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