2024.12.26(最終更新日:2024.12.26)
第33回 祝!『伝統的酒造り』ユネスコ無形文化遺産登録 Part1~バラ麹って何?~
米盛病院の非常勤医師であり、焼酎マイスターの資格も持つDr.畑がお届けする鹿児島ならではの焼酎雑学。
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昨年12月、日本酒&焼酎業界にビッグニュースが入りました。おめでたい新年に合わせて今回は急遽テーマを変更し、「祝!『伝統的酒造り』ユネスコ無形文化遺産登録」と題して、2回シリーズでお話しいたします。
無形文化遺産の保護に関する条約(無形文化遺産保護条約)は2003年にユネスコ総会で採択され、現在世界182カ国の締約国があります。そして、無形文化遺産に登録されるとその保護措置を講ずるよう定められているだけでなく、国際的な認知度を大きく向上させることができます。「和食」や「風流踊」が登録されたことは記憶に新しいと思いますが、遂に『伝統的酒造り』も登録されました。
日本人の生活の中で、多くの儀礼や神事に深く結びついている「酒」はまさに「文化遺産」なのだと思います。
登録要件は、①米などの原料を蒸すこと ②手作業で伝統的な麹菌を用いてバラ麹を製造すること ③並行複発酵を行い、水以外の物品を添加しないこと等となっています。
これらは日本独特のとてもユニークな工程なのです。
この要件の中で、少しわかりにくい言葉がありますね。バラ麹や並行複発酵とは、いったい何のことでしょうか? 今回は「バラ麹」についてお話しします。並行複発酵は次回に詳しくお話しすることにしますね。
日本の麹と中国の麹が異なるのはなぜ?
さて、「こうじ」には2種類の漢字があります。「麹」と「糀」です。
「麹」は中国から来た漢字。「糀」は日本で作られた和製漢字です。「麹」という漢字は、すべての「こうじ」に使われますが、「糀」は米麹にのみ使われます。見ての通り、「麹」の字の中には、「麦」も「米」も入っていますが、「糀」は米だけです。麹を使用した酒造りは東アジア一帯に広がっていますが、日本の麹と中国などの麹は実は非常に異なった姿をしています。
中国などの麹は、一般に「もち麹」と呼ばれるレンガ状や団子状の塊です。
一方、日本の麹はご存知の通り、蒸し米に麹菌を生やした粒状でバラバラの「バラ麹」。生えている菌も全然違います。中国の麹菌は主にクモノスカビ(リゾプス属Rhizopus)などで、日本の麹菌(アスペルギルス属)とは全く違います。
なぜ全く違うものになったのでしょうか? 推測でしかありませんが、そこには人々の生活や文化が大きく関わっているようです。
日本人の主食は米を炊いたご飯です。稲作が大陸から伝わって以降、ずっと続いている粒食文化。
一方、大陸側の主食は米以外に大麦・小麦など様々なものがあります。麦は粒のままだとあまり美味しくないですよね。だから、粉にして水でこねて団子にしたり麺にしたり。そして、それを蒸したり茹でたりして食べる粉食文化が発達しました。
生活様式と密接に関わる麹
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蒸した米」に生えやすいのが日本の麹菌(アスペルギルス)で、「生(なま)の麦や米」に生えやすいのが中国などの麹菌(リゾプスなど)。日本の麹菌は酸素を大量に使うからバラバラの麹(バラ麹)に。そうでもない中国の麹は塊の麹(もち麹)になりました。
ご飯の食べ残し(それともお供え?)に生えていたのがアスペルギルスで、団子を蒸さずに放っておいたら生えてしまったのがリゾプスなのでしょうね。やはり我々の生活様式と密接に関わっているようです。発見した我々の祖先たちは、本当に立派だと思います。カビの生えたご飯が水に濡れてグジュグジュになっていたのを食べたのでしょうね。すごい勇気! 私は絶対食べたくないです! 笑。
さて、今日はユネスコ無形文化遺産登録を祝って、乾杯といきますか?
次回は、「祝!『伝統的酒造り』ユネスコ無形文化遺産登録 Part2」です。お楽しみに!

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焼酎マイスター Dr.畑
宇治徳洲会病院 救命救急センター長 / 米盛病院 非常勤医師 畑 倫明
焼酎と温泉をこよなく愛する医師。追求心が強すぎて、好きなだけでは飽き足らず、「温泉ソムリエマスター」「焼酎マイスター」「焼酎唎酒師」に続き、「日本酒唎酒師」も取得!