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2021.01.28(最終更新日:2021.02.17) INTERVIEW ~気になるあの方にお話聞きました~

【薩摩錫器】伝統を守る。変化するから面白い|岩切美巧堂 取締役会長 岩切 學さん

 

地域の輝く方々を米盛病院の広報スタッフが取材。
お仕事へのアツい思いやモットーなどを伺います。
今回は、有限会社 岩切美巧堂 取締役会長 岩切 學さんにお話を伺いました。

 

伝統を守る。変化するから面白い

厚生労働省が優れた技術を持つ職人・技術者を表彰する「現代の名工」。
2020年11月、鹿児島県からは2名の職人が選出されました。その一人が鹿児島の伝統的工芸品「薩摩錫器」を製作する岩切美巧堂4代目 岩切學さん。
300年の歴史をもつ薩摩錫器の世界を体感するため、霧島市国分へ伺いました。

 

始まりは焼酎工場

創業は大正5年(1916年)。現在30代~80代まで10名の職人が技を磨いています。初代は霧島市国分で、焼酎工場で使用される蒸留器の管を作っていました。

錫と焼酎工場?」と不思議に思われるかもしれませんね。錫は人体に無害であるとされ、分子が粗く不純物を吸収するため、水を浄化するといわれています。そのため、今でも蒸留器の管に使われています。

しかし、時代の変化を感じ取った初代は、息子(岩切 登六)を鹿児島市の老舗業者へ修行させます。これが現在に繋がる工芸品としての錫器づくりのスタートです。2代目 登六は、私の父にあたります。

実は、私は跡を継ぐつもりではありませんでした。12歳上の兄が父に師事し、修行を積んでいましたが、志半ばで父が急死。私が21歳のときでした。会社が忙しかったこともあり、兄を支えるため大学卒業後にこの道に入ろうと決意。
親父から「頼むよ」と言われたような気もしましたね。3代目を継いだ兄と二人三脚で取り組んできました。

 

ミクロの世界を手作業で

商品によって工程は異なりますが、茶壺の場合は13工程です。
まず、錫の延べ棒を溶かし、鋳型に流し入れて成型します。錫は融解温度が232度と比較的低く、加工しやすい点も特徴です。成型されたものを我々職人が削り、漆を用いて絵付けし、腐食作業・加工を行い完成です。
全て手作業で、経験を頼りにミクロ単位で削り出していきます。

薩摩と錫の歴史は深く、明暦元年(1655年)に発見された錫鉱山(現:鹿児島市下福元町)は、藩の財政を支える重要な存在でした。父の代までは、鹿児島で採れた国産の錫を使用していました。今はインドネシア・マレーシアから輸入し、約35 キロの延べ棒を月に50本程使用しています。

 

茶壺を作って一人前

錫はやわらかい金属で、鉄のように強い力で旋盤加工することができません。そのため、やわらかく固定し優しくカンナを当てていきますが、軽い力で錫の表面が削り取られる様子を見て皆さん驚かれます(笑)

茶壺を作って一人前」という言葉がある程、茶壺製作には高い技術が必要。蓋と口のすり合わせが難しいのです。
1000分の1ミリ単位の繊細な調整を繰り返すことで、密閉性が高まり、茶葉が長持ちします。コーヒー豆の保存にも適しています。大久保利通が愛用していた錫の茶壺が発見された際、保存されていた100年前の茶葉の香りが損なわれていなかったというエピソードも残っている程です。

 

自分の感覚を頼りに

カンナで製品を軽く叩き、「音」で厚みを判断します。最初は失敗が多いのですが、何十年もやり続け、分かるようになると失敗がありません。

これは今までの数多くの失敗の賜物。音や指触りなど自分の感覚を頼りに、最適な厚みを生み出すため、自身で習得しない限り先へ進めません。そのため、職人への指導では、もちろん言葉で説明もしますが、試行錯誤を繰り返して「自分で習得する」という姿勢を育てています。

 

変わっていくから面白い

酒器から置物まで幅広く取り扱う。お気に入りの1 点を見つけよう!

この世界に入って50年以上が経ちますが、今でも毎日が発見です。機械でなく手作業ならではの難しさもありますが、「思うように削れる」というのが良いのかもしれません。

1点1点違いがあり、様々な加減が求められます。きっと、変わっていくからこそ面白くなるのでしょうね。

 

伝統と新しさ

學さん自らも接客を行う。ショールームでは500 点程の作品を展示・販売する

私たちは、伝統を守ることを「新しい風、新しい血を入れ、伝統に裏打ちされた技に磨きをかけ、発展させること」と捉え、年に2、3回新作を出し続けています。

2020年は、薩摩錫器に漆で色づけした漆加工シリーズや内側に桜島の絵柄を描いた商品などを発売しました。薩摩切子とコラボした商品もあります。
「ただそのまま」では、時代の変化と共に廃れてしまいます。何か新しいことを取り入れられないかと、その先を考え続けています。

新作を出した際は特に、お客様の反応に注目します。相手に見ていただくという意識を持ち、工場に併設するショールームや錫器制作体験、百貨店の展示会を通してお声を伺っています。作って終わりではなく、お客様へお届けするまでが仕事。それはスタッフ全員へ伝えています。

新作と同じく力を入れるのが、復刻品。うちの蔵には先代から保存されている作品が多数あります。大正・明治時代だけでなく、江戸時代のものも。当時を想像・推測しながら復元しています。やはり、先人たちの技術ってすごいなと感嘆しますね。復元を通して改めて学ぶこと、刺激を受けることが多いです。

 

縁起の良い錫で良い年を願う

錫は、割れない・錆びないことから縁起の良い金属とされます。年末は、干支の置物が人気で今年の干支「丑」の置物も製作しています。2021年が良い年であって欲しいと願うばかりです。

 

店舗情報

有限会社 岩切美巧堂 薩摩錫器工芸館

霧島市国分中央4-18-2
:0995-45-0177
【営】8:00 ~12:00/13:00 ~17:30
(日:9:00~12:00/13:00~17:00)
【休】12月31日~1月3日

 

Profile

岩切 學(いわきり まなぶ)さん
1944 年、霧島市生まれ。
大学卒業後、薩摩錫器の世界へ。
2020 年11 月「現代の名工」を受賞。
健康の秘訣は、日々のトレーニングと趣味の散歩。自作の薩摩錫器で焼酎を嗜む。

 

米盛病院 広報課スタッフ取材メモ

洗練されたデザインと錫特有の質感。1000分の1単位まで挑み続ける職人たちの静かなる情熱を感じました。

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