2023.03.07(最終更新日:2023.05.02)
清水エスパルス(サッカー日本代表) 権田 修一さんインタビュー
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米盛病院は、鹿児島キャンプ中のJリーグチームのメディカルサポートを行っており、今年は4チームをサポートしています。 そのひとつ、清水エスパルスのゴールキーパーで、FIFAワールドカップカタール2022TMでも大活躍された権田修一選手に、単独インタビューをさせていただきました。
中学生で芽生えた「プロ意識」
サッカーを始めたのは幼稚園の頃です。活発すぎて幼稚園から帰宅してからも、ずっと家で暴れているような子で、両親が「幼稚園で疲れさせよう」と、園にあったサッカークラブに入れたのが最初のきっかけでした。練習は毎日あるわけではないので、家でサッカーをすることが増えて、家の障子がよけいに破れたという話を聞きました(笑)。
小学生の頃、僕が所属していたサッカークラブは、川崎のさぎぬまサッカークラブ(※1)というチームなんですけど、チームメイトのお父さんが監督をやっていて、OBの方がコーチをされていました。周りのお父さんたちは、みんなサッカー初心者で、なんなら僕らと一緒にサッカーを学んでいました。そういうチームだったので、小学生時代はただただシンプルにサッカーを楽しんでいたのを覚えています。
中学からFC東京の下部組織に入りました。1年生から、トップチームの選手と同じユニフォームを着て戦っていたので、その頃から「楽しさ」という面もありながら、やっぱり自分たちはFC東京の選手なのだから、プライドを持たなきゃいけないとか、僕らの中でそういう気持ちや責任感が芽生えたのを覚えています。
ケガや病気に苦しんだ学生時代
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中学・高校時代はケガや病気が多かったですね。それこそ中学2年生で初めて日本代表に選ばれた海外遠征で髄膜炎になったんです。帰国後2日間意識がありませんでした。あと、高校生の時も膝や首のケガで、1年以上サッカーができない時期がありました。中学生の頃から日本代表などに選んでもらっていて、自分の中では充実していた反面、ピッチに立てない時間、練習ができない時間というのも多かったので、それはすごく苦しい時間でもありました。
中学・高校で、一番好きなサッカーができないという辛い思いを経験したので、今はサッカーを楽しむためにまずはしっかりご飯を食べて、しっかり寝て、健康を常に意識するように心がけています。あとはケガをしないように体のケアには人一倍気を使っています。
それでもケガをすることはありますが、プロになった今は、気持ち的には少し余裕が持てるようになりました。試合があったり、普段チームにがっつり関わったりしていると、どうしても研ぎ澄ました精神状態で日々を過ごさなければいけません。それがちょっと気持ちに余裕が出る時ほど、逆に違う目線でいろんなことが見えたりします。ケガをしないのが一番ですが、ケガをしたらそういう違う目線で物事を見られるようになりました。
しかし、まだまだ若い中高生に、ケガをしたときに「立ち直れ」、と言うのは自分がそうだったようになかなか難しいと思います。そこは逆に息抜きをさせてあげる時間とした方が良いと思います。僕は当時「ケガをした時はしっかり休んで」と言ってもらえて、すごく気が楽になった時もあったんですよ。
こだわり、こだわり過ぎるな
ゴールキーパーの素養として大切なことは、 ちょっと難しいかもしれないですけど「こだわることと、こだわり過ぎないこと」この2つのような気がします。
ゴールキーパーはミスが失点に直結するので、同じミスを繰り返すことがあってはならないポジションです。例えばシュートが転がってきて、それが自分の足の間を抜けてゴールしてしまうとするじゃないですか。そしたら、次に同じようなボールが来たらそうならないようにしっかり気をつけなきゃいけないんですよ。そういう一個一個のこだわりは、すごく基本的なことで絶対大事なんです。
ただし、失点をしてしまうことって必ずあるんですね。その犯したミスにこだわりすぎて、「次もミスしちゃったらどうしよう」と考えていると、その先絶対うまくいかない。だからミスをしたとしても、そのミスにこだわり過ぎずに、気持ちをパッと切り替えて「次頑張ろう」と思うことが、ゴールキーパーにとってとてつもなく大事だと思います。
ゴールキーパーはすごく責任感があって、やりがいのあるポジションですけど、簡単なポジションでないことは間違いありません。自分のミスで失点したらチームメイトや監督から怒られることもあります。それに耐え得る精神力だったり、逆に味方を励ます気持ちだったりとか、いろんなものを持ちながらやるのがゴールキーパーです。
なので今ゴールキーパーをやっている子どもたちは本当に責任感のある子が多いんじゃないかなと思います。全員がプロになれるわけじゃないけど、その子たちが将来さまざまな分野で大成していくんじゃないかと僕は思っています。
ワールドカップで「もう一個上」へ
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今後の目標について、まずは近いところで言うと、3年半後にアメリカ大陸で開催されるワールドカップがあります。今回、カタールでのワールドカップをピッチで実際に経験して、もう1個上(ベスト8)へ行きたかった。
僕は初めてのワールドカップで、自分の持てる力の全てを出そうという感覚で今回臨みましたけど、3年半後のワールドカップでは、その持てる力のレベルをさらに高めなければならないと感じています。じゃあ、そこをもう一段超えようって思った時に何が必要かっていうところからの逆算で、これからの3年半は毎日過ごしていかなきゃいけないなって思っています。自分がその舞台のピッチに立つだけじゃなく、日本の勝利にもっと貢献して、ベスト8だけじゃなくベスト4、決勝、そして優勝するところにどう自分が力になれるかを目標として考えています。
今回のワールドカップを皆さんご覧になって、ドイツ、スペインに勝ったことで「すごい!」って思ってもらえたと思いますが、将来的にはそれが当たり前になるような日本になってほしいと思っています。
おそらく大会が始まる前、皆さんの中では正直勝ち上がるのは厳しいと思われていたのではないでしょうか。だからこそ、これだけ盛り上がったんだと思います。逆にスペインは僕らと同じベスト16敗退で大批判されて、監督はすぐに解任されているんですよね。日本サッカーが目指すレベルっていうのはそこで、やっぱり「ドイツに勝った!スペインに勝った!」だけではなくて、常にベスト4、常に決勝っていうレベルを目指したいですね。
それはひょっとしたら現役引退後、あるいは死んでからかもしれないですけど、本当にずっと勝つ未来のためには今が必要なので、もっとゴールキーパーというポジションの価値、日本サッカーの価値を上げるためにいろいろやらなきゃいけないなと考えていますし、自分の役目だと思ってます。
躍動感のあるエスパルスに
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昨シーズンまでチームはJ1でしたが、最近は下位に低迷していました。僕が入団して2年ですが、ここ数年はJ2に降格しないように、どこか安定を選ぶようなサッカーをしていたように思います。
しかし今シーズン、僕らはこれまでの消極的なサッカーではなくて、どんどん前に出ていく躍動感のあるサッカーをサポーターの皆さんにお見せしていきます。
今年はJ2で九州での試合も何試合かあるので、鹿児島のサポーターの皆さんにも観戦に来ていただけたらうれしいです。何というか、選手が湧き出るような、ピッチに11人以上いるように感じるような、選手たちが躍動するサッカーを今年はやっていこうと思っているので、そこに注目してほしいと思います。
僕自身としては、まず健康に1年間を過ごすことがベースとしてはありますけど、やっぱりいろんなチャレンジをしていかなきゃいけない1年になるかなと思っています。J2というカテゴリーでプレーする中でも3年半後のワールドカップを目指すことについては、正直矛盾もあるし、難しい点はあるんですけど、例えば周りの選手がみんなでヨーロッパのトップでやってる中で、一人だけJリーグ組でワールドカップの試合に出場したこともあったので、環境を言い訳せずに自分自身でいくらでも上げていけるというのはここ2年間エスパルスに入ってからある程度証明できたと思います。
これからもその姿勢は変えずにやりながらも、チームがチャレンジするのと一緒で、僕自身もこれまでの2年間よりももっと何かにチャレンジして変わっていかないと、ただ時が過ぎるだけになってしまいます。それには覚悟も必要ですし、勇気も必要になるんですけど、この1年間でJ1に戻った時にJ1の他のチームから「権田ってこんなに躍動感のある選手だったっけ」という風に思ってもらえるような、ちょっと違った一面もこの1年でしっかり会得して、J1に戻りたいなと思っています。自分自身が成長し続けるということが、さっきの短期的な目標でもお話しした、3年半後のことに繋がっていくのかなと思っています。
鹿児島の子どもたちにメッセージ
まずは、本当に楽しくサッカーを頑張ってほしいなというのが一番です。鹿児島キャンプに来て思いますけど、これだけ空気も綺麗で、ご飯もおいしくて、地形的にも坂や山があって、自分でちょっと考えたらいろんなところでトレーニングができる環境っていうのは、実はサッカーをする上で本当に整っている町で、それって日々をなんとなく過ごしていると多分気付かないんですよね。
子どもたちはまだ県外で生活する機会がほとんどないから、分からないかもしれないですけど、通学時間に平均で30分かかる地域ってそんなになくて、自分のことでいうと最長で10分でした。30分あれば学校4つくらい行けますよ(笑)。その30分という時間がもしかしたら日々トレーニングになっているかもって考えるとポジティブじゃないですか。30分だるいなぁ、きついなぁじゃなくて、実は自分がサッカー選手になりたいっていう目標から逆算していたら、鹿児島に住んでいること自体が何かすごくポジティブなことかもしれません。
この鹿児島に住んでいるってことを最大限活かして、とにかくいろんなことを考えてポジティブに捉えて、この町で育ったことを誇りに、頑張ってほしいなと思います。
権田 修一(ごんだ しゅういち)
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1989年、東京都出身。
中学生時代にFC東京の下部組織に入団し、高校在学中にトップチームに昇格。その後同チームでプロデビューを果たす。2016年にSV ホルン(オーストリア)へ期限付移籍。
以降、海外クラブを含む複数のチームを経験し、2021年シーズンから清水エスパルスに所属。U-15時代から各年代の日本代表に選出。
昨年カタールで開催されたワールドカップでは好セーブを連発し、日本代表のベスト16進出に大きく貢献。
清水エスパルス
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