SmaHapi(スマハピ)まわりの人たちの笑顔のために。緑泉会Webマガジン。

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2019.07.02 医療のお話

2019年4月モザンビーク派遣リポート「人と人をつなぐ」

サイクロンで大きな被害が出たアフリカ・モザンビーク共和国で医療活動を行った副院長の冨岡医師に話を聞きました。

 

避難所で感染症が多発 モザンビークでの医療活動

診療サイトでの始業前ミーティング

 モザンビークの人口は約3,000万人。首都はマプト。公用語はポルトガル語で国内には40以上の現地語が存在します。以前は政情が不安定でしたが、現在は割と落ち着いています。医療水準が低く、モザンビーク国内には手術ができる外科医は20人程度しかいません。看護師1人で1日100人以上の診察を行い、帝王切開なども行っている状況で、地域によっては呪術医がいまだに信じられています。
 国際緊急援助隊(JDR:Japan Disaster Relief Team)の医療チームが派遣されたのは、同国の中でも特に被害が大きかったベイラという町。日本からは、第1次隊が3月28日に出発。私は第2次隊の副団長として4月5日に成田空港に参集し、まずは香港まで4時間、そこからヨハネスブルグまで13時間、そして首都のマプトまで1時間半をかけ、さらにマプトからベイラまで1時間20分飛んで現地に到着しました。活動したのは「グアラグアラ」という、ベイラから4WD車で約4時間の村。人口は約25,000人。その内のおよそ5,000人が避難所生活を強いられていました。
 日本チームは見渡す限りサバンナが広がる大地の真ん中に診療サイトを張ってそこを拠点にし、夜明けから15時頃まで診療活動を行いました。診療サイトは既存の建物にブルーシートを貼って確保しましたが、これが大変暑くて50度くらいまで気温が上昇することも。電気も水道もなく、太陽が沈むと、あたりは本当に真っ暗です。夜は夜露がかなりひどく、テントの表面がびしょびしょになりました。高温多湿で感染症が蔓延する中での野営活動ということで、我々隊員は自身の健康管理を徹底する必要がありました。

受付で順番を待つ現地の方々

 グアラグアラで活動していたのは、我々日本チームだけ。日本という国のことを知らない現地の方がたくさんいて、その物珍しさも手伝ってか、日によっては患者の大行列ができることも。避難所の衛生状況は悪く、怪我人よりもマラリヤやコレラといった感染症の症状を訴える患者が目立ちました。その中で重症そうな人をトリアージをして、診療するというのが我々の医療チームの主な流れでした。重症の方は、診療サイトから車で1時間程の大きな町まで搬送して治療にあたりました。
 今回の派遣では小児科や耳鼻科、救急科の医師が診療にあたり、臨床検査技師はマラリヤやコレラといった感染症の検査など、薬剤師は薬の処方のほか水や食料を渡して帰宅指導などを実施。助産師は9名の妊婦の検診を行い、母子全員の健康を確認しました。日本の医療チームは1次隊、2次隊合わせて、約800名の患者の診療を実施したことになります。
 これまで国際緊急援助隊は、約60回の派遣経験がありますが、今回の派遣において、我々にはひとつ、注目すべきトピックがありました。日本発のサーベイランスシステムの海外での初運用です。

 

日本発世界標準「MDS」初めての運用

小児科医による子どもたちへの診察

 「サーベイランスシステム」とは、どこでどのような保健医療上の問題が起こっているのかを把握するシステムのこと。東日本大震災の際には、多くの医療班が現地に集まりましたが、患者のカルテや避難所の情報集計に非常に時間がかかってしまいました。そこで、日本医師会や日本災害医学会といった関係団体が集まって、災害発生時にそれらの情報を早急に集計できるシステムを作ろうと試みました。その参考にしたのがフィリピン保健省が世界保健機構(WHOWorld  Health Organization)と協力して構築した大災害時サーベイランスシステム「SPEEDSurveillance in Post Extreme Emergencies and Disasters)」です。発災後にスマートフォンで簡単に患者情報の統計が取れるこのシステムを、日本の医療チームがフィリピンに派遣された際に持ち帰り、再構築したのが日本版「J-SPEED」です。
 このJ-SPEEDは「平成28年熊本地震」で初めて使われました。避難所における患者数や疾患の分類、医療チームがどこに何人いるか、ということをスマートフォンの画面上でただちに把握することができました。また、昨年発生して西日本を中心に甚大な被害をもたらした「平成30年7月豪雨」、「平成30年北海道胆振東部地震」、大阪府北部の地震でも運用され、非常に大きな成果を残しています。

浄水器を設置。現地の方々が大変喜んでくれた

 不幸なことに災害が頻発している最近の我が国ですが、このJ-SPEEDというサーベイランスシステムの有効性はそのたびに確認されており、災害医療情報の標準化手法「MDSMinimum Data Set)」としてフィードバックされました。このMDSは、被災地で活動する各国の緊急医療チームが使用する国際標準として世界保健機構(WHO)により採択されました。今回のモザンビークで初めてこのMDSが運用されました。その結果、被災地の保健医療情報がリアルタイムで端末にアップされ、世界中のさまざまな医療チームがこのデータを共有することによって、活動効率を飛躍的にアップさせることができました。災害医療において非常に画期的な出来事です。
 今回の派遣でさらに特筆すべきことは、浄水器を持ち込んだことです。ベイラでは井戸水を飲料水として使用していますが、同地の地下水脈位は非常に高く、トイレは地面を掘って用を足すため、地下水は大腸菌で汚染されています。現地の方たちも煮沸なしでは井戸水を飲めなかったのですが、浄水器を使って水をきれいにすることができました。今回は実際に使えるかどうかの試験導入でしたが、現地の皆さんには大変喜んでもらえました。また、持参した薬品や什器、備品などで、捨てないでいいものについては、同地の村長さんに供与してきたことを付け加えておきます。

 

日本人の気持ちを伝え現地の気持ちを持ち帰る

診療後のサッカーで仲良しに

 今回の我々の活動報告としては、全隊合わせて10日あまり滞在し、約800人を診療しました。そして診療以外にも、日本発世界標準のサーベイランスシステム「MDS」を使って、疾患の統計をリアルタイムで提供し、その技術を現地に供与してきてきました。
 また、緊急医療チーム調整所「EMTCCEmergency Medical Team Coordination Cell)」の運営支援のほか、JICA(国際協力機構)を通じて前述の浄水器などの緊急援助物資を供与しました。
 現地の皆さんに、これまで知らなかったであろう日本という国を知ってもらえた、というのも大きな成果の一つではないかと考えています。国際緊急援助隊は医療を提供しに行くのだけれども、日本人の気持ちを伝え、そして現地の方の気持ちをもらって帰ってくるのも、その使命であると思います。

大自然の美しい夕景

 診療後は、現地の子どもたちとサッカーやダンスに興じました。半ば栄養失調気味の子たちばかりだったのですが、非常に上手だった。他にも音楽や踊り、そしてデザインの才能がある子もいて、びっくりしたのを覚えています。
 日本チームは、なるべく現地の人たちと近しい距離感の滞在を心がけました。他の海外の医療チームが我々の見学に来てびっくりするのは、日本チームの野営地の周りに囲いが何もないこと。他国は厳重な警備体制を敷くのが通例なのです。こういった日本のやり方については、海外から一目置かれているのを感じていますし、我々が一緒に遊んだ子供たちが、初めて聞いた「日本」という国に親しみを持ってくれて、実際に留学に来てくれるかもしれません。そして、日本に何かあった時、彼らが我々を救ってくれるかもしれない。国際緊急援助というのは、単に医療を提供するだけではなく、こういった「人と人をつなぐ」ことなのだと強く感じています。そしてこのような交流こそが、国際緊急援助を行うことのの意義だと思います。

現地の子どもたちと記念撮影を行った

 残念ながら日本のこういった活動は、国民の皆さんにはあまりよく知られていません。我が国の辛い災害の歴史から、J-SPEEDのような統計システムが生まれ、熊本や岡山、そして北海道で役に立った。それがさらにフィードバックされ、モザンビークの地で大活躍した。こういったトピックを、もっと日本の皆さんに広く知ってほしいと願っています。
 余談ですが、現地で我々の通訳をしてくれた方が、日本チームのスタッフ全員に手作りの民族衣装をプレゼントしてくれました。すべて違う柄で作ってくれていました。アフリカというのは、客人は絶対手ぶらで帰さないらしく、それぞれの人となりに合う柄を選んでくれたらしいです。ちなみに私の柄は赤を基調としたもので、イメージにピッタリでした(笑)。

 

モザンビークにおけるサイクロン被害 「サイクロン・アイダイ」

発生日:2019年3月14日
上陸日:2019年3月15日(モザンビーク中部沿岸)
被災者・避難者数:約1,850,000人
死者数:598人
負傷者数:1,600人以上
全壊家屋:97,424件
一部損壊家屋:103,537件
浸水家屋:15,784件
避難所生活者数:130,000人(236避難所)

(2019年4月現在 WHO調べ)

 

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