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2022.11.22(最終更新日:2023.01.17) Dr.畑の 焼酎入門

第20回 酵母はいじめればいじめるほど、良い香りを出す?

米盛病院の非常勤医師であり、焼酎マイスターの資格も持つDr.畑がお届けする鹿児島ならではの焼酎雑学。

 

  皆様、こんにちは。宇治徳洲会病院救命救急センター長(兼米盛病院非常勤医師)の畑です。
「焼酎マイスターDr.畑の焼酎入門」は、なんと20回目を迎えました。焼酎の話題って尽きることがないですね。

 

さて、今回のテーマは「酵母はいじめればいじめるほど、良い香りを出す?」です。

原料のお米を半分以上削ってしまう?
なんのことか分からないですよね。皆さんは日本酒の「精米歩合」というものをご存じでしょうか?

 

精米歩合とは

原料となるお米の表面をどれだけ削っているかを表したものです。削った後の「残った部分」の割合を%で表しています。
「削る」というとあまり美味しくなさそうですから、業界では「磨く」と言っていますが、同じことですよね。

薫り高い最高級の大吟醸などは50%を下回ります。驚くことに原料のお米を半分以上削ってしまうのです。なんともったいない!
しかし、なぜそんなことをするのでしょうか?

 

酵母は楽をさせるとあまり仕事をしない!?

脂質・タンパク質・ビタミンなどお米の栄養は米粒の表面に多く含まれており、米粒の中心付近はデンプンのみに近くなります。すなわち、米を「磨く」というのはお米から栄養を削っているということなのです。

酵母も生き物ですから、本当は栄養がたくさんあった方が良いに決まっています。ならば、なぜわざと栄養の少ない状況にして酵母に意地悪をするのでしょうか?

実は、酵母は楽をさせるとあまり仕事をしません。どこか私とよく似ていますね(笑)。酵母は栄養分が少ない状況におかれると、自らの手でアミノ酸などを作り出そうと頑張ります。
その時同時に作り出すのが香り成分なのです。大吟醸の豊かな香りは酵母をいじめた結果だったのですね。

一方、焼酎原料の代表格である芋の場合は、米のような訳にはいきません。では、薫り高い芋焼酎を造るにはどうすればいいでしょうか?

 

香り高い芋焼酎を造るために

今回は、薫り高い焼酎を造るための工夫の一つをご紹介しましょう。秘密は酵母の方にありました。

酵母が作り出すフルーティーな香りの一つに「酢酸イソアミル」という物質があります。その香気成分の元がロイシンというアミノ酸です。

しかし、普通の酵母は、アルギニンというアミノ酸が大好物らしく、優先的に取り込もうとします。アルギニンがたくさんある環境で酵母に楽をさせると、酵母はお腹いっぱいになって大事なロイシンを取り込もうとしません。

そこで、人間は考えました。アルギニンとよく似た別の物質(しかし、それを取り込むと生きていけない)を含む培地で酵母を育ててやろうと。人間って意地悪ですね。
そして、その培地で生き残った酵母だけを増やしました。人間にいじめられても生き残ったたくましい酵母はアルギニンを取り込まず、ロイシンを優先的に取り込みます。

その結果、人間は酵母に香り成分をたくさん作り出させることに成功したのです。いや~、ひどいことをしますねぇ(笑)。

最近発売されているフルーティーな香りの焼酎の中にはこのような酵母が使われているものがあります。
皆様も次に焼酎を飲むときには、「酵母よ、いじめられてもくじけないでよく頑張った!」と酵母の頑張りを褒めてあげてくださいね。

 

次号は「タイ米の方が焼酎に向いている? !です。お楽しみに!

 

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焼酎マイスター Dr.畑 

宇治徳洲会病院 救命救急センター長 / 米盛病院 非常勤医師 畑 倫明

焼酎と温泉をこよなく愛する医師。追求心が強すぎて、好きなだけでは飽き足らず、「温泉ソムリエマスター」に続き、このたび「焼酎マイスター」「焼酎唎酒師」も取得!

 

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