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2025.03.03(最終更新日:2025.03.03) Dr.畑の 焼酎入門

第34回 祝!『伝統的酒造り』ユネスコ無形文化遺産登録 Part.2~並行複発酵って何?~

米盛病院の非常勤医師であり、焼酎マイスターの資格も持つDr.畑がお届けする鹿児島ならではの焼酎雑学。

みなさま、こんにちは。もうすぐ春ですね。
春は出会いと別れの季節です。私も例外ではありません。 

3月末で宇治徳洲会病院高度救命救急センター長の職を辞し、4月から再び米盛病院で一医師として、また一焼酎マイスターとして(?)働くことになりました。よろしくお願いいたします。

 

祝!「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産登録

昨年12月、日本酒&焼酎業界にビッグニュースが入りましたね。『伝統的酒造り』がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
というわけで、今回のテーマは前回に引き続き、「祝!『伝統的酒造り』ユネスコ無形文化遺産登録パート2~並行複発酵って何?~」です。

 

酒造りに関わる微生物と発酵の種類

焼酎入門第12話で詳しく書きましたが、酒造りに関わる微生物は、麹と酵母の2種類です。
そして、微生物が関わる酒造りの発酵の方法は3種類。ワインを造るときの「単発酵」、ビールを造るときの「単行複発酵」、そして日本酒や焼酎を造るときの「並行複発酵」です。

ブドウなどの糖分を原料とするときは、酵母による一段階の発酵だけでアルコールができます。これがワイン造りの「単発酵」。 

一方、麦・米・芋などのデンプンを原料とする場合は、一度デンプンを麹や麦芽の力で糖に変え(糖化)、さらにその糖を酵母の力でアルコールに変えるという二段階の発酵が必要です。これが、ビール、日本酒、焼酎などの「複発酵」。
そして、この複発酵に「単行」と「並行」の2通りの方法があるのです。電池の直列と並列に少し似ていますね。

 

ビールの発酵工程

ビールの場合、麦のデンプンを糖に変えるのが発芽した麦「麦芽」に含まれる酵素「アミラーゼ」。その麦芽のアミラーゼ活性の至適温度が約65℃
ということは、「麦芽」に65℃のお湯を加えると最も効率よく甘い麦汁ができるということになります。 

しかし、65℃の高温では酵母が死んでしまいます。そのため、麦汁からアルコールを作るには一度麦汁を冷やしてから、酵母を加えないといけません。
つまり、ビールを造る工程は、麦汁を造る工程(糖化)と麦汁からアルコールを造る工程(アルコール発酵)の「直列」なのです。

  

日本酒・焼酎の発酵工程

では、日本酒や焼酎を造る工程はどうでしょうか? 

日本酒や焼酎の場合、糖化に使うアミラーゼを含む「麹」と糖からアルコールを造る「酵母」を一緒にして、そこに水を加えて発酵させます。
麹や酵母の至適温度はともに3040℃程度。つまり、糖化とアルコール発酵が同時進行(並列)なのです。麹のアミラーゼで原料のデンプンを糖に変え、その直後に糖を酵母がアルコールに変えるので、原料の糖の濃度はあまり高くなりません。

 しかし、それがいいのです。糖の濃度が高すぎても酵母はうまく働きません。
ビールの単行複発酵はアルコール度数が5%程度ですが、並行複発酵の日本酒は20%近くまでアルコール度数が上がるのです!

  

日本の酒造りのすごさ

麦芽は微生物ではありませんが、麹も酵母も微生物!日本の酒造りは自然の力、2種類の微生物をうまく使っているからできるのですね。 

微生物の存在がわからなかった遥か昔から、多くの微生物を巧みに活用してきた日本人は本当にすごいと思います。何か神秘的なものを感じませんか?まさに無形文化遺産なのです。 

さあ、今日も世界遺産で乾杯しましょう!

 次回は、「菌塚にお参りしてきました!」です。お楽しみに!

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焼酎マイスター Dr.畑 

宇治徳洲会病院 救命救急センター長 / 米盛病院 非常勤医師 畑 倫明

焼酎と温泉をこよなく愛する医師。追求心が強すぎて、好きなだけでは飽き足らず、「温泉ソムリエマスター」「焼酎マイスター」「焼酎唎酒師」に続き、「日本酒唎酒師」も取得!

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