2023.03.10(最終更新日:2023.05.01)
放っておけない『サイレントキラー』 高血圧症
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今や日本人にとって最も身近な疾患の一つともいえる高血圧症。
推計によると、その有病者数は国民の3人に1人。Sma Hapiの人気コーナー「食養生&薬膳レシピ」でもおなじみで、県内外事業所の産業医を務めているりん先生(米盛病院内科医)が、高血圧症の治療について解説します。
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今や日本人にとって最も身近な疾患の一つともいえる高血圧症。
推計によると、その有病者数は国民の3人に1人。Sma Hapiの人気コーナー「食養生&薬膳レシピ」でもおなじみで、県内外事業所の産業医を務めているりん先生(米盛病院内科医)が、高血圧症の治療について解説します。
目次
血圧が高いとわかったら 早めの受診でリスク評価を
死亡や要介護の原因となる疾患には高血圧症が関連するものが多く、その代表的なものとして脳卒中や心臓病、認知症、腎臓病などが挙げられます。何となく「健康のためには良くないだろうなぁ」とは思いながらも、多くの場合自覚症状がないために放置されがちな高血圧症。自覚症状なく進行して重篤な疾患を引き起こすことから「サイレントキラー」とも呼ばれています。
国内の高血圧症有病者は約4300万人で、その4割強に当たる約1850万人が治療を受けていない、という推計もあります。(※1)
「その気になれば、生活習慣を改善して血圧を下げるのは簡単!」と思っている方も多いかもしれません。もちろん生活習慣の改善はとても大切ですが、血圧が高くなる原因は生活習慣だけではありません。血圧が高いとわかったら、早めに受診して医療機関でリスクを評価し、生活習慣の改善、薬物治療、家庭血圧の評価、そして後述する二次性高血圧症のチェックをする必要があります。
※1:高血圧治療ガイドライン2019
高血圧症の原因
高血圧症には2つのタイプがあります(図1)
本態性高血圧症
約9割は原因を特定できない高血圧で「本態性高血圧症」といいます。何かの病気が原因で血圧が上がっているのではなく、生活習慣やストレス、遺伝的要素などさまざまな要因が重なっていると考えられます。
二次性高血圧症
残りの1割ほどは、高血圧をきたす疾患がある「二次性高血圧症」というものです。二次性高血圧症の場合、原因となる疾患を治療することで治癒することがあります。
二次性高血圧症の原因疾患のうち、目立った症状がないことから、なかなか見つけられないものには以下のような疾患があります。
- 原発性アルドステロン症
腎臓の上にある副腎という臓器に良性の腫瘍ができ、血圧を上昇させるアルドステロンというホルモンが過剰に分泌されることによって、高血圧を引き起こします。
頭痛や筋力低下などの症状が出ることがあります。 疑いがあれば、まずは採血でのスクリーニング検査を行います。手術によって病変のある副腎を摘出する治療法や、内服によってアルドステロンの働きを弱める治療法があります。 - 腎血管性高血圧症
腎臓に血液を送る腎動脈という血管が狭くなったり、閉塞することで生じる高血圧です。 内服による治療で効果が得られない場合、狭くなった腎動脈を広げるためにカテーテル治療を行うこともあります。 - 睡眠時無呼吸症候群
睡眠中、呼吸が浅くなったり、一時的に停止したりすることで生じる高血圧です。夜間のいびきや日中の眠気、肥満などがある場合にこの疾患が疑われます。
睡眠中に鼻につけたマスクから空気を送ることで無呼吸状態が起こらないようにする持続性陽圧換気(CPAP)療法という治療が代表的です。マウスピースを使って空気の通り道を作りやすくしたり、無呼吸の原因によっては手術によって治療したりすることもあります。
受診の際に行う検査
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重症度の評価のために、動脈硬化、心疾患、腎疾患などの臓器障害のチェック、また、高家圧症以外に治療すべき疾患がないかも調べていきます。
具体的には、問診、血圧測定、診察、血液検査(必要に応じてホルモンの検査を含む)、検尿に加え、腹部超音波検査、CT検査、睡眠ポリグラフィー検査、24時間血圧測定などが必要に応じて行われます。
大切な家庭血圧の測定
健診で高血圧を指摘されたことがない方も、自宅での血圧測定を習慣化すると、早期発見につながることもありますし、日常生活と血圧変動の関連がわかり、生活習慣改善の動機づけにもなります。
まず大切なのは、起床時の血圧です。起床後1時間以内、朝食の前に測定します。早朝高血圧は脳卒中や心臓病につながる危険性が高いことが知られています。また、就寝前にも測定することが推奨されています。食事や飲酒、運動、入浴などは血圧に影響しますので、これらの直後は避け、落ち着いた状態で、毎日できるだけ決まった時間帯・同じ環境で測定することが大切です。
家庭血圧の場合、基準は収縮期血圧(いわゆる「上の血圧」)が135mmHg、拡張期血圧(「下の血圧」)が85mmHg です。診察室で測定する場合は140mmHg/90mmHg が基準になります。上も下も基準値より高い場合はもちろんですが、上だけが高い、あるいは下だけが高い、という場合も基準値を超えていると判断します(図2)。
診察室で測定した血圧は正常でも家庭血圧は高い「仮面高血圧」や、家庭血圧は正常だけど診察室で測ると高い「白衣高血圧」、家庭でも診察室でも高い「持続性高血圧」など、さまざまなタイプがあり、治療方針が異なります。適切な治療方針決定のためにも、家庭血圧の測定は重要です。