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2022.09.07(最終更新日:2022.11.07) 医療のお話

中学生がつないだ!救命のバトン|日置市での救命事例を紹介

もし道ばたに人が倒れていたら・・・、
救助にあたることは当然のことかもしれませんが、実際にはとても勇気のいることかもしれません。今回は日置市のあるファミリーの勇気をきっかけに、人命が救われた事例をご紹介します。

 

8月9日、日置市役所で「消防長表彰」が行われました。表彰を受けたのは、日置市にある土橋中学校1年生の稲留壱心(いっしん)君です。

 

7月のある日

7月某日早朝、壱心君は2人の弟たちと共に、お母さんの運転する車で所属する野球クラブの練習に向かっていました。その道中、運転中のお母さんが道路に人が倒れているのを見つけます。「自転車で転んだのかな」と徐行しながら様子を確認したところ、けいれんしているようにも見え、ただごとではないと察知して車を停めました。 

実はこの前日、日置市消防本部のみなさんが土橋中全校生徒とPTAの方々を対象に実施した「救急救命教室」を受講したばかりだった稲留さん親子。迷うことなく、倒れていたAさんの救命処置にあたりました。お母さんはAさんの様子を確認しつつ、壱心くんに119番通報を依頼。壱心くんは消防へ情報を伝えるとすぐに、学びたての胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行いました。

【0分】救命措置開始・通報

稲留 壱心君
緊張したけど、「やらなきゃ」と思いました。心臓マッサージをやっている間は気がつかなかったけど、救急隊の方に引き継いだ後には、腕がつるような感じの疲れがありました。このような経験は一生に一度できるかできないか、という体験なのでよい経験になったし、この先忘れることはないと思います。
将来は野球選手を目指していますが、今回の経験を通じて「人助けもできる野球選手」になりたいと思うようになりました。社会に出てからも、もし機会があったら人助けができるように、と思っています。

Aさんはこの日、知人と2人での自転車ツーリング中に急性心筋梗塞で倒れてしまったそうです。知人の方は前を走っていたため、後ろでAさんが倒れたことに気づかずにしばらく1人で走っていましたが、Aさんがいないことに気づいて引き返すと、稲留さん親子と合流し、壱心くんと2人で交互に心肺蘇生を続けました。

そしてこの間、道ゆく車の誘導にあたったのは壱心くんの弟たち。小学5年生の光國(みつくに)君と小学3年生の鷹丸(たかまる)君も、懸命に心臓マッサージを続けるお兄ちゃんをアシストしていたのです。 

 

現場に駆けつけた救急救命士

通報から10分後、現場に駆けつけたのは救急救命士の濱田仁さんをはじめとする日置市消防本部の救急隊です。
濱田さんの目に飛び込んできたのは、道路の真ん中で心臓マッサージをするユニフォーム姿の野球少年。濱田さんは、「もしかしたら昨日の救急救命教室を受講した生徒さんかも」と思いながら接触しました。 

この時Aさんの心臓は止まっていて自発呼吸もなく、「死戦期呼吸」の状態。「死戦期呼吸」とは、死の直前のあえぎ呼吸のことで、一刻を争う状況です。壱心君たちから救命のバトンを引き継いだ救急隊は、胸骨圧迫を継続しつつAEDを準備、速やかに電気ショックを試みました。幸いにも、一回目の電気ショックでAさんの心臓は動き出し、自発呼吸も再開しました。その後、救急隊がAさんを救急車に収容して向かった先は、米盛病院ドクターカーとの「ドッキングポイント」です。

 

【10分後】救急隊到着

濱田 仁さん
現場に到着した時、Aさんは死戦期呼吸の状態。自発呼吸との見分けが難しいのですが、講習では「(自発呼吸がある場合は心臓マッサージは不要ですが)死戦期呼吸の場合は惑わされずに心臓マッサージをしてください」と口を酸っぱくして伝えたので、それを覚えてくれていたのではないかと思います。本当に大したものです。
今回のように、講習の翌日に救命の現場に遭遇し、しかも適切に対応してくれたことはとてもまれなケースですが、できるだけ多くの方に講習を受けていただけると、助かる命が増えると思います。
もしお近くで講習会があれば、ぜひ受講していただきたいと思います。

 

米盛病院 ドクターカーが合流

壱心くんの119番通報を受けた日置市消防本部からは、救急隊の出動と同時に米盛病院へドクターカーの出動要請も出されていました。
「ドッキングポイント」とは、患者さんを乗せた救急車と、医師・看護師を乗せたドクターカーが合流し、医師による治療が開始される地点です。

ここで救命のバトンは米盛病院救急科の葉山雄大医師と坂上由佳看護師へ渡ります。壱心くんが119番通報をしてから29分後のことでした。

葉山医師と坂上看護師は救急車に乗り込み、現場でAさんの状態を確認して気管内挿管などの必要な処置を行い、Aさんを米盛病院へ搬送。搬送中も救急車内では心臓超音波検査や点滴などの処置・観察が行われ、病院搬入後に速やかに検査・治療が開始できるよう救急外来へ情報伝達を行っています。 

 

葉山 雄大医師(米盛病院救急科)
中学生による救命というのは、私が救急に携わるようになってから初めて経験したケースでしたので大変驚きました。早い介入ができていなければ、仮に心臓が助かったとしても、脳に障害が残ってしまってもおかしくない状態でした。
壱心くんやご家族のみなさんの迅速な対応のおかげで、Aさんが後遺症を残すことなく退院できたと思います。とても勇気ある行動だったと思います。

 

米盛病院へ到着

そして壱心くんによる119番通報から65分後、Aさんを乗せた救急車は米盛病院へ到着し、ただちに救急外来の「ハイブリッド手術室」にAさんを搬入。 

救命のバトンを受けた循環器内科の尾辻秀章医師が緊急カテーテル検査・治療を行い、Aさんの心臓の血管の詰まりは無事に解消されて心臓の筋肉に必要な血液が送られるようになりました。カテーテル治療で血流が再開したのは119番通報から1時間58分後、病院到着からは1時間足らず、そしてステント(血管を広げたまま保持するための、筒状の医療器具)を血管に留置してカテーテル治療を終えたのはその1時間後でした。

 

尾辻 秀章医師米盛病院循環器内科

一般の方にとって、心臓マッサージを行うことはとても怖いことと感じられるのではないかと思います。今回は壱心君が恐怖に打ち克って心臓マッサージをしてくれたおかげで、Aさんはほぼ後遺症なく自宅退院することができました。
今回のように、地域の方々が勇気を出して救命を手伝ってくだされば、今後の救命率や社会復帰率の向上につながっていくと思います。 

【2時間58分後】カテーテル治療終了

その後ICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)、そして一般病棟へとAさんの療養の場は移り、医師・看護師・リハビリテーションスタッフなどさまざまなスタッフによる治療の結果、Aさんは入院から約3週間後に後遺症なく無事に退院されました。
退院後はご自宅で、減塩・低カロリーの食事を心がけ、毎日ウォーキングを続けられるなど、職場復帰に向け日々順調に過ごされているそうです。

 

【約3週間後】無事退院

Aさん
事故当日の記憶が全くなく、覚えているのは米盛病院のHCU にいた辺りからです。そのころ初めて、自分の救命措置をしてくれたのが中学生の方だったことを教えていただきました。大人でも躊躇しそうな心臓マッサージですが、実際に行動に移し、助けてくれたことに対してとても感謝しています。
今回一命を取り留めることができたのは、すぐに対応にあたってくれた中学生親子と消防、ドクターカーの連携のおかげと思っております。また、無事に退院できるまで回復できたのは米盛病院のスタッフの方々のおかげです。みなさまに、誠に感謝しております。ありがとうございました。

 

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