三叉神経痛
病気の概要
顔面の知覚を司る三叉神経を血管が圧迫することにより、電撃的な痛みが三叉神経領域におこります。
症状について
顔をちょっと触ったり、風があったたり、食事などにより痛みが誘発されます。虫歯の痛みと勘違いし歯科を受診し抜歯を受けた後に脳神経外科を受診される患者さんもおられます。
治療
テグレトールというてんかんの薬が内科的治療として使われますが、4人に1人くらいの割合で薬の副作用であるふらつきがひどく内服を継続できない方がおられます。錠剤は1錠100mgですが60歳代後半以上の御高齢の方には、私は散剤で25mgから処方することが多く、この量でふらつきの起こる方はまれです。痛みの様子をみながら量を変えていきます。
お薬による鎮痛が不可能な場合、内服治療を望まれない患者さんには外科的治療をお勧めします。他にブロック治療、サイバーナイフ、ガンマーナイフなどの放射線治療があります。全身麻酔が受けられない身体状態或いは、外科治療を希望されない、或いは外科治療で治らなかった場合に選択される治療法ですが、除痛とともに感覚障害の副作用もいまだ多いようです。
外科治療法を説明致します。耳介後方で髪の生え際の内側の小さな皮膚切開で小さな開頭をおこない、三叉神経を圧迫している血管を神経からはずしこより状にした繊維を巻きつけ、元の位置に戻らないように別の場所に固定します。以前の治療法は血管を移動させるのではなく、血管と神経の間にスポンジ様のものをはさみ直接の圧迫を解除するものでした。この方法ですと、一旦痛みがとれても挟んだものを介して神経を血管が圧迫し拍動が伝わり、神経痛が再発しやすい傾向がありましたので、現在は上に述べました移動法が主流となっています。これにより95%の患者さんは手術直後より痛みから解放されます。残りの5%の患者さんは痛みがとれません。三叉神経痛の原因は血管の圧迫のみでは説明できない症例もわずかにあるようです。この場合、先ほど述べましたように他の治療法を追加します。
手術で痛みがとれたのに数年後再発する場合が5~10%あります。再手術を行いますと前回移動させた血管が再び神経を圧迫している、他の血管が圧迫している、血管による圧迫はないが神経周囲のくも膜の炎症肥厚、前回手術で使用された糊などにより三叉神経が牽引され屈曲している、前回の手術での神経と血管の間の挿入物による圧迫などの所見があります。圧迫血管の解除、神経周囲の剥離による屈曲の解除などにより再発症状の消失を得られることがほとんどですが、やはり痛みの取れない方もおられ他の治療法が必要となります。
手術についてもう少し詳しく述べます。上小脳動脈という1~1.5mm径の動脈が圧迫血管であることが最も多く、この場合手術は簡単なものとなります。他に前下小脳動脈という動脈も圧迫血管のことがありますがやはり困難ではありません。問題は圧迫血管が椎骨動脈、脳底動脈という太い動脈の場合です(図)。この場合血管は太いだけでなく動脈硬化で固いことが多いです。三叉神経はこの動脈により引き延ばされ薄くなっておりしかも三叉神経以外の聴神経、顔面神経、外転神経などの脳神経もこの太い動脈により圧迫され引き延ばされていることがあります。この状態で血管を三叉神経から離し移動させるのは注意を必要とします。三叉神経より移動させる事自体が難しく、また移動に伴い三叉神経、あるいは同時に引き延ばされている聴神経など他の神経のさらなる変位が生じ、顔面のしびれ、聴力障害、眼球運動障害による複視が出現し、痛みはとれたのに他の神経症状に悩まされることがあります。手術中の判断で血管の移動が安全かどうかの決定をします。顔面の慢性的な異常感覚は、痛みではなくてしびれであってもかなりのストレスを患者さんに与える事になるので三叉神経への愛護的操作が必要となります。
以上、通常は安全に合併症なく施行される手術であり治療効果も高いですが、椎骨、脳底動脈のような太い動脈が圧迫している時は注意を要する手術となるということを述べました。
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椎骨動脈(↑)の圧迫があり血管転位にて顔面のしびれをおこすことなく痛みがとれました。
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監修:祝迫 恒介
脳神経外科/脳腫瘍センター長
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