あんべがわるい時に ~ケガ・病気ガイド~ 体が痛い、調子が悪い...そんなときに病院に行ってよいのか、どの科を受信したら良いかわからない、などの不安はありませんか?米盛病院の医師がそんな不安に役立つように疾患についてお答えしています。受診の際にお役立てください。 あんべがわるい時に ~ケガ・病気ガイド~

脳腫瘍

病気の概要

当院で治療可能な脳腫瘍には髄膜腫、聴神経鞘腫(ちょうしんけいしょうしゅ)などの神経鞘腫、海綿状血管腫、脊索腫(せきさくしゅ)、軟骨肉腫などがあります。

治療

髄膜腫

視力障害をきたす「鞍結節髄膜腫(あんけつせつずいまくしゅ)」、「蝶形骨縁髄膜腫(ちょうけいこつえんずいまくしゅ)」の症例では、初発例で腫瘍の圧迫による視神経の傷みが少なければ、摘出手術により視力の回復が可能となります。視力障害で発見される「鞍結節髄膜腫」の場合2㎝前後の大きさのものが多く、手術は難しいものではありません。
「蝶形骨縁髄膜腫」は視力障害を来たしている場合、かなり大きなものになっていることが多く、内頚動脈など大事な血管が巻き込まれています。髄膜腫には柔らかいものと固いものが存在し、柔らかいものであれば血管が巻き込まれていても比較的安全に摘出できます。固い場合は血管や神経などの大事な構造物の周囲にある程度残す場合があります。

 


  • 【蝶形骨縁髄膜腫】
    ふらつき、高次機能低下にて発症した患者さん。腫瘍は全摘出され症状は消失しました。


聴力障害・三叉神経痛・顔面のしびれ・ふらつきなどで発症し発見される脳幹周囲の髄膜腫には「錐体斜台部髄膜腫(すいたいしゃだいぶずいまくしゅ)」、「テント髄膜腫」などがあり、これらがいわゆる頭蓋底腫瘍といわれるものです。脳の正中部、最深部にあるもので、診断された時点で症状の割にかなり大きくなっている傾向にあります。特にふらつきが出現している場合はその傾向が強く、治療法は外科的摘出術がまず行われ、腫瘍が残存すれば病理検査の結果に応じ、経過観察あるいはガンマナイフ、サイバーナイフ照射が行われます。
摘出術は腫瘍に到達するために頭蓋底部の骨を削除して行われることが多く、また摘出時の腫瘍からの出血量を抑えるために、外科手術前にカテーテルにて腫瘍血管の塞栓術を施行することもあります。
摘出術の難易度は先ほどと同様に、やはり腫瘍の固さによります。巨大な頭蓋底腫瘍の場合、2日に分けて行う方針をとることがあります。1日目に頭蓋底部の骨削除を行い、腫瘍の状態を調べて摘出が容易ならばそのまま摘出に入り1日で終了させます。固いもの、出血しやすいものならば、ある程度摘出した後に1日目を終了し、翌日に残存部位を摘出します。
頭蓋底腫瘍の摘出後、脳を包んでいる硬膜が大きく欠損しがちです。頭皮下の筋膜・筋肉・骨膜や、腹部の皮下脂肪などを使い頭蓋底部の修復をおこないます。この修復を確実に行うことが、髄液漏・髄膜炎などの予防として重要です。感染の合併がなければ、術後3週間程度で退院可能となります。
髄膜腫により有効聴力が低下、あるいは消失している場合でも、摘出術後に聴力が回復することがあります。腫瘍摘出にて聴力が改善する可能性はかなり低い「聴神経腫瘍」とは対称的であり、摘出に際し聴神経に対し愛護的操作を心がけます。
髄膜腫が嚥下、発声をつかさどる舌咽神経、迷走神経にからんでいる時には患者さんの年齢にもよりますが、無理な剥離操作による神経ぎりぎりの摘出は避けるべきと考えます。60歳以上の方に嚥下障害がおこりますと肺炎を合併しやすくなり入院期間も長くなってしまいます。舌咽、迷走神経周囲に残存した腫瘍に対しては、経過観察或いは定位放射線にて対処します。

 


  • 【錐体斜台部髄膜腫】
    ふらつきにて発症した方で頭蓋底手技を用いて摘出後、歩行が著明に改善しました。


  • 【錐体斜台部髄膜腫】
    ふらつきにて発症した再発症例で他医にて頭蓋底手術を受けており、通常の手技にてほぼ全摘出しました。


聴神経鞘腫(聴神経腫瘍)

聴力低下、耳鳴り、顔のしびれ、ふらつきなどで発症し発見される腫瘍です。聴力低下、耳鳴りで発見された場合は1.5㎝以下の小さな腫瘍の場合が多く、ふらつき、顔のしびれなどで発見された場合は3㎝以上の大きな腫瘍の症例が多く有効聴力は消失していることが多いです。このような大きな腫瘍では脳幹が圧迫されており、早めに開頭腫瘍摘出術を受ける必要があります。
2㎝以下の小さな腫瘍で有効聴力がある場合は聴力を温存した摘出が可能であり、1.5㎝以下のものであればさらに聴力温存の可能性が上がります。腫瘍の表面には顔面神経が引き延ばされて張り付いており、この神経を傷つけないように腫瘍を摘出します。
4㎝以上の大きな症例、再手術症例、ガンマナイフなどの放射線照射後の症例の場合は腫瘍と神経、腫瘍と脳幹の癒着が強い場合があり、無理な剥離操作により神経を痛めてしまい顔面神経麻痺などを引き起こすことがあります。このような時は全摘出にこだわらず、神経或いは脳幹表面に薄く腫瘍を残存させ、無理な剥離はおこないません。残存させた腫瘍の再発、拡大の可能性はありますが、経過をみていますとそのまま変化のない症例も多く、増大傾向が認められた場合はサイバーナイフなどの定位放射線治療をおこないます。
腫瘍摘出時、腫瘍から著しい動脈性の出血を伴う症例があります。止血に時間を要し術後出血もおこりやすいですので、ある程度の腫瘍摘出と止血が得られた段階で手術を終了し、その後定位放射線治療を行うほうが良い場合もあります。手術後、ふらつき、顔面のしびれなどが出現することがありますが手足の麻痺、意識障害などは経験していません。
ふらつきは50歳台前半までの患者さんならば1ヶ月以内で消失することがほとんどですが、60歳台後半よりご高齢の場合、完全に消失するのに1年くらいかかることがあります。
ふらつき、めまいは症状が消失するというよりも、めまいになれていく(船酔いに慣れていくように)といった要素のほうが大きいと思います。大きな腫瘍でも手術後2週間弱で退院して日常生活に戻れる方もおられます。

 


  • 【聴神経腫瘍】
    ふらつきにて発症した他医術後再発症例。腫瘍は全摘出され、顔面神経機能は2ヶ月で回復しました。


  • 【聴神経腫瘍】
    ふらつきで発症した症例。腫瘍は摘出され聴力は温存されました。

  • 上の症例のオージオグラム。有効聴力温存が示されています。


海綿状血管腫

海綿状血管腫は血管奇形のひとつで、小さな出血を繰り返すことで拡大していきます。しかし動脈瘤や動静脈奇形などとは異なり、血流は非常に遅い血管腫瘍であり、破れるのは静脈成分なので一回の出血で強い症状がおこるわけではありません。
大脳半球にできるとけいれんが主な症状で、脳幹にできると複視・顔面のしびれ・顔面神経麻痺などが出現します。けいれんを症状とする大脳半球の海綿状血管腫を摘出する目的は、けいれん発作の抑制です。発作に罹患してから長期間たっていると、血管腫だけが異常脳波の原因ではなくなっていることもあり複雑です。罹患期間が短いならば、血管腫の摘出によりけいれん発作の軽減・消失により抗けいれん薬の減量、中止をはかることができます。
脳幹海綿状血管腫について説明します。一回の出血により起こる症状は、2~3ヶ月でほぼ回復し重い後遺症は残りません。しかし、脳幹の海綿状血管腫は再出血率が高く数年後に再出血をきたし、症状が出現してまた2~3ヶ月で軽快し、また出血します。このようにして再出血を繰り返すうちに、再出血までの期間がだんだん短くなって1~2ヶ月となっていき、後遺症状も強くなっていきます。
血管腫は最初のうちは脳幹深部に埋もれていることが多く、これを摘出するには正常の脳幹に切り込まねばならず、それに応じた新しい合併症(感覚、運動障害など)が生じます。したがって、脳幹海綿状血管腫は手術の時期の判断が大切です。数回の出血で血管腫が大きくなり脳幹表面に近くなり、摘出に際し正常脳幹への切りこみが最小限になった時が理想時期と考えます。これを社会復帰可能な段階で行えるように手術時期を考えます。早すぎても遅すぎてもよくないと思います。脳動静脈奇形に対してはガンマナイフ、サイバーナイフなどの放射線治療の効果がありますが、海綿状血管腫に対する効果はないといわれてきました。しかし最近、脳幹海綿状血管腫再出血をおさえるという報告が僅かですがでてきました。

 


  • 【海綿状血管腫】
    右上下肢の動きにくさで発症した視床血管腫の症例。全摘出され右上肢の触覚位置覚の低下が後遺しました。


  • 【海綿状血管腫】
    左上下肢の不全麻痺で発症した症例。全摘出されています。


脊索腫

脊椎或いは頭蓋骨正中深部の斜台という部分より発生する腫瘍で悪性ではありませんが、斜台に生じた場合骨を破壊しながら頭蓋底部より脳幹部へ伸展し脳幹機能を侵していく頭蓋底腫瘍のひとつで、予後の悪い疾患です。一回の手術で摘出しても、腫瘍は頭蓋底部を形成する骨に浸潤しているため、この腫瘍の発生源となっている骨を取り去らない限り再発を繰り返します。複数回の手術を受けている患者さんが多く、1回目の手術での摘出が大切です。腫瘍は正中部に発生することが多く、正中部の腫瘍に対しては開頭による摘出術より内視鏡を使用した経鼻的摘出が優れていると考えます。腫瘍が側方に伸展した場合には開頭手術が必要になりますが徹底摘出を行いますので、多くの場合硬膜の欠損した頭蓋底部の脳が上咽頭、鼻腔にさらされた状態になります。この場合の修復には形成外科医の協力が必要となり、チームで手術を行っています。
どうしても取りきれなかった残存腫瘍に対しては、重粒子線、サイバーナイフ照射などをおこない半年ごとにMRIにて経過観察します。

 


  • 【脊索腫】
    歩行障害、嚥下困難の再発脊索腫症例。形成外科の協力のもと手術を施行し、腫瘍(矢印部分)は摘出されています。


軟骨肉腫

軟骨肉腫は肉腫という病名がついていますが、他の悪性腫瘍に比べて悪性度が低く進行も遅く外科的摘出にて治癒が可能であり、脊索腫と違い腫瘍が残存しても予後不良因子となりにくいといわれています。
しかし再発を繰り返し大きくなる症例もあり、その場合には徹底摘出をこころがけます。残存腫瘍に対しては、摘出した腫瘍の病理検査の結果、術後経過観察中の大きさの変化などを総合的に判断し重粒子線治療、定位放射線治療の追加を検討します。

 



  • 【軟骨肉腫】
    歩行障害、嚥下障害で発症した再発症例。耳鼻科、形成外科と合同で摘出しました。


頭蓋咽頭腫

下垂体茎という視床下部と下垂体をつなぐ部位より発生する腫瘍で、小児期にも成人期にも発生します。外科的全摘出をめざしますが、腫瘍は視床下部に進展しておりその場所は摘出時に残存しやすく再発を繰り返す原因となるので、経鼻的アプローチ、開頭手術によるアプローチを単独あるいは、組み合わせて外科摘出を行います。経鼻的アプローチは開頭摘出術に比し視床下部を直視下に確認できる利点があり、開頭術は側方、上方に進展した腫瘍部位の摘出に有効で、腫瘍の形状により手術法が決定されます。それでも残存した腫瘍には定位放射線照射をおこないます。

 


  • 【頭蓋咽頭腫】
    経錐体法により全摘出を施行しました。


血管芽腫

袋状の嚢胞を伴い小脳半球にできるものと、嚢胞を伴わない実質状で脳幹周囲にできるものがあり、良性腫瘍です。脊髄にできる場合もあります。
嚢胞状の血管芽腫の摘出は容易ですが、脳幹を圧迫している実質状の血管芽腫の手術は難易度の高いものとなります。聴神経、顔面神経や舌咽、迷走、副神経などの嚥下にかかわる神経が腫瘍近くにある場合、出血に対する凝固などの手術操作で神経機能が損なわれやすく、特に嚥下機能の低下は患者さんの生活の質に悪影響を与えます。
術前に腫瘍血管の塞栓術を行うことがありますが、脳動静脈奇形の塞栓術と異なり脳梗塞のリスクも高く、効果的塞栓が得られないことも多いです。脳動静脈奇形で塞栓される動脈と異なり、血管芽腫の塞栓される動脈は正常脳も還流していることが多いからです。サイバーナイフなど定位放射線治療照射をまず行い、その後摘出術を行う場合もあります。
(ガンマナイフ、サイバーナイフ等の放射線治療が必要な場合は、治療可能な病院をご紹介いたします。)

  • 監修:祝迫 恒介

    脳神経外科/脳腫瘍センター長

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    頭痛やめまい、ふらつき、顔面の痛みやぴくつきなどの日常的な症状から、脳卒中(脳梗塞・脳内出血・くも膜下出血)、頭部外傷などの緊急を要する疾患や脳腫瘍まで対応可能な体制を整え、安全・安心な医療を提供できるように努めています。 家族歴・高血圧症・糖尿病・高脂血症を持っていたりするなど、気になることがありましたらご相談ください。

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