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脊髄刺激療法(SCS)について
脊髄刺激療法(SCS)について
米盛病院 整形外科では、長引く慢性的な痛みに対する治療選択肢の一つとして、「脊髄刺激療法(Spinal Cord Stimulation, SCS)」を行っています。
脊髄刺激療法(SCS)とは?
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脊髄刺激療法は、脊髄に微弱な電気を流すことで、慢性の痛みを和らげる治療法です。痛みは、痛みの信号が神経を通って脊髄に伝わり、さらに脳に達して初めて「痛い」と認識されます。この治療は、痛みの信号が脳へ伝わる経路に作用し、その信号伝達を調整することで痛みを軽減させます。 電気刺激は、脊髄を覆う硬膜の外側にある硬膜外腔と呼ばれる空間に挿入した細い電極(リード)を通して行われます。
海外では40年以上の実績があります。また、日本では1982年に薬事承認、1992年に保険適応となり、世界で35万人以上、国内では1万人以上の患者さんがこの治療を受けています。 -
どのような痛みに有効?
脊髄刺激療法は、主に薬物療法や神経ブロックなどで十分な鎮痛効果が得られない、体幹や四肢の慢性難治性疼痛が主な対象となります。
特に効果が期待できるのは以下の種類の痛みです。
- 脊椎・脊髄疾患(脊柱管狭窄症など)による痛み
- 脊椎手術後の下肢痛(いわゆる「フェイルドバックシンドローム」FBSS):手術で痛みの原因を治療した後も持続的に痛みが残る場合。
- 幻肢痛・断端痛
- 虚血性疼痛:閉塞性動脈硬化症(ASO)などの血行障害に伴う痛み。
- 有痛性糖尿病性末梢神経障害
- 中枢性脳卒中後痛
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
- 脊髄損傷後の痛み
- 開胸術後疼痛
- 外傷・放射線治療による腕神経叢損傷 など
一方、脊髄刺激療法は、リウマチやがん性疼痛などの炎症による痛み(侵害受容性疼痛)や、心理的な要因による痛み(心因性疼痛)にはあまり効果が期待できないと報告されています。
患者さんが苦しんでおられる痛みが、この治療の適応となるかを慎重に判断することが非常に重要です。当院では、患者さんにとって最善の治療選択肢を提供できるよう、丁寧な診察と検査に基づき、この治療が適切であるか総合的に判断いたします。
脊髄刺激療法に使用される機器
脊髄刺激療法で使用される機器は主に以下の3つです。
- リード(刺激電極): 脊髄に微弱な電流を流すための電極が先端についている細い導線です。硬膜外腔に挿入されます。
- 刺激装置(ジェネレーター): 電気回路と電池が内蔵されており、治療用の電気刺激を発生させ、リードに送ります。腰やお腹など、目立たない皮膚の下に植込まれます。刺激装置には、定期的な充電が必要な充電式と、電池が消耗したら交換手術が必要な非充電式があります。非充電式の電池寿命は設定や使用時間により異なりますが、一般的に2~5年程度です。充電式は、適切に充電すれば9年以上使用できるものもあります。(対外から充電できますので、充電のために刺激装置を取り出す必要はありません。)
- 患者用コントローラー(患者プログラマー): 患者さんがご自身の体の外から、植え込まれた刺激装置の調節を行うためのリモコン機器です。痛みに合わせて刺激設定の変更や刺激装置のオン/オフなどを調節することができます。医師が設定した範囲内での調整が可能です。
治療の流れ
米盛病院では、脊髄刺激療法を検討する患者さんに対して、以下の流れで治療を進めることを標準としています。
- 外来受診・目標設定: まず外来で痛みの状態を詳しく伺い、SCSが適応となるか診断します。SCS治療について詳しく説明し、治療によってどのような日常生活の改善を目指すか、具体的な目標を患者さんと一緒に設定します。
- 入院・試験刺激(トライアル): 脊髄刺激療法の効果を確かめるため、入院して試験的にリードを挿入します。手術は局所麻酔下で行われ、脊髄の硬膜外腔にリードを挿入します。手術中に患者さんと会話しながら、痛い場所と刺激の場所が一致する最適なリードの位置を探していきます。リードは試験用刺激装置とつなげ、入院中に様々な設定を試してご自身に合った刺激や設定を見つけていきます。この試験刺激期間で、治療の効果を患者さんご自身で判定することができます。試験刺激で効果が確認できなかった場合は、挿入したリードは抜去し、元の状態に戻すことが可能です。
- 入院・刺激装置の植込み(本植込み): 試験刺激期間で効果が確認された場合、引き続き同じ入院中に刺激装置(ジェネレーター)を体内に植込みます。リードを体内でずれないよう固定し、腰や腹部などの目立たない場所に刺激装置を植え込みます。手術自体は比較的簡便で、5cm程度の小さな切開を行う程度です。
- 植込み後の設定と調整: 刺激装置の植込み後、試験刺激期間で効果のあった刺激設定を機器にプログラムし記憶させます。退院後は、患者さんご自身が患者用コントローラーを使って、医師が設定した範囲内で刺激を調整し、痛みをコントロールできるようになります。外来での診察を通じて、必要に応じて刺激設定の調整などを継続的に行います。
入院期間について
米盛病院では、上記の試験刺激から刺激装置の植込みまでを、通常、1週間前後の入院で行うことを標準としています。
期待される効果
脊髄刺激療法により、長期的な痛みの緩和が期待できます。臨床試験において50%以上の疼痛緩和を達成した患者さんの割合が高いことが示されています。
痛みが和らぐことによって、設定した目標の達成に近づき、日常生活における活動の幅が広がり、生活の質が向上するという効果が期待できます。
治療後の生活と注意点
手術後の回復には数週間かかります。植込み部位に一時的な不快感や痛みを感じることがあります. 刺激装置とリードが体の中で安定するまでの術後約6~8週間は、リードの位置ずれを防ぐために活動制限を守っていただく必要があります。
術後6~8週間の主な注意事項
- 体を大きく曲げたり、ひねったり、伸ばしたりしない(例:腕を頭の上に上げる、肩を大きく動かす、ストレッチ運動など)。
- 体の向きを変える際は、体をねじらず、肩と腰を一緒に動かす。
- 2.5キロ以上の重いものを持たないようにする。
- 階段の上り下りや長時間着席することは極力控える。
- 傷口に熱や痛みがあればすぐに医師に伝える。
- 刺激の変化、不快な刺激はすぐに医師に伝える。
費用について
脊髄刺激療法は健康保険の適用となっています。治療費が一定の限度額を超える場合、高額療養費制度を利用することができます。この制度を利用することで、窓口での自己負担額を軽減できます。制度の利用方法や、年齢・所得区分による自己負担限度額の詳細は、ご加入の健康保険組合やお住まいの自治体にご確認ください。
ご注意点
脊髄刺激療法はすべての痛みに有効な万能な治療ではありません。最も効果が期待できる患者さんを見極めるためには、痛みの種類や原因を正確に診断し、治療の適応を慎重に判断することが不可欠です。当院では、患者さんにとって最善の治療選択肢を提供できるよう、丁寧な診察と検査に基づき、この治療が適切であるか総合的に判断いたします。
ご自身の痛みが脊髄刺激療法の対象となる可能性があるか、ぜひご相談ください。
治療の概要をYouTubeでご覧いただけます。
「脊髄刺激療法とは?治療の流れと具体的な方法」(ヘルスケアチャンネル|メドトロニック公式)